近現代美術における「作者」概念

2021年度後期大学院講義科目(神戸大学)

近現代においては、「作者」という概念は、芸術とは何かという問いについて考える上で、重要な役割を果たしてきました。また「作者」の問題は、「主体性」をどのように捉えるのか、主体と客体、個人と世界との関係とはどのようなものかという複雑な問いとも結びついています。この授業では、「芸術家」という職業意識の形成や、18世紀末に本格的に整備され始めた著作権の形成の歴史から出発しながら、モダニズム芸術を支えたオリジナリティの概念とそれへの懐疑、「作者」という記号をめぐるアートの取り組みに至るまで、さまざまな運動・作家・作品・展示・著述をもとに、
芸術実践の歴史と理論的布置の双方を分析の手がかりにして検討します。

アートギャラリー
 

西洋美術と政治・社会

2019年度後期大学院講義科目(神戸大学)
2020年度期前期学部講義科目(神戸大学)

社会における芸術の役割を芸術家が明確に意識していた19世紀初頭、「社会芸術」という呼称がフランスに誕生します。当初はフランス革命の精神を体現する啓蒙的な芸術のことを指す言葉でした。続いて、都市の貧困や労働者、農村の人々を描きながら、社会問題や階層を作り出すシステムを批判する主題や、社会が目指すべきユートピアのイメージを描く画家たちが登場します。芸術はこうして、政治や社会と密接に関わりながら展開しました。この講義では、19・20世紀西洋における、現代社会や政治を批判する芸術からプロパガンダ芸術まで、幅広く扱います。また普仏戦争から第二次世界大戦までの様々な戦争画や戦没者記念碑についても紹介します。
このことを通して、政治や社会をめぐる思想を伝える芸術と、自由で自律した表現としての芸術という、二つのあり方について検討してみましょう。

フィリップ・オーギュスト・ジェアンロン、《パリの風景》、1833年
 

近現代芸術と科学

2020年 後期 大学院講義科目(神戸大学)

この授業では、近現代芸術と科学の関わりについて概観しながら、西洋美術がどのように科学や技術の発展と関わって来たのかを講義します。

芸術は科学から大きなインスピレーションを得ながら発展し、古来より人体比率の理論を独自に発展させたり、ルネサンス以降は解剖学を教育に取り入れたりして来ました。

また18世紀以降になると、科学の実験・例証のイメージを描いた絵や、生物学や生理学、心理学、細菌学、進化論など、最新の科学を取り入れた芸術も登場するようになります。

この授業では、とりわけ ① 科学が例示してくれるものへの関心を示す芸術 ② 科学が構造的に示す事柄に対し芸術家が抱いた関心 ③ 科学の魔術的側面への芸術家の傾倒 について検討します。

文学と科学との関係、SF文学の誕生などについても、授業の中で解説する予定です。

An_Experiment_on_a_Bird_in_an_Air_Pump_by_Joseph_Wright_of_Derby,_1768_edited.jpg
 

近現代西洋美術における肖像画

2019年度前期学部講義科目(上智大学非常勤)
2019年度後期学部講義科目(神戸大学)

近現代西洋美術の基本的な流れを把握し、その中で肖像の問題がどのように理解できるのかを学びます。
芸術作品に描かれた人々の姿には、政治・社会の流れや同時代の思想、芸術家の心理などが込められています。理想的な人間の姿や服飾の流行は、どのように変化していったのでしょうか。西洋の人々は、異国の人々をどのように描いたのでしょうか。また芸術家の自画像にはどのような変遷があったのでしょうか。芸術をめぐるシステムの変化や新しい技術の誕生は、どのように肖像画のジャンルの展開に影響を与えたのでしょうか。こういった問いに取り組むにあたって、一つ一つの作品を丁寧に見ることで、芸術と社会とのつながりについて考えてみましょう。

ティツィアーノ《ある女性の肖像》(通称ラ・スキアヴォーナ) 1510年頃 ロンド
 

西洋美術における
「記録」と「記憶」

2019年9月 学部集中講義(愛知県立芸大非常勤)

この授業では、20世紀美術史のなかでも、イメージによる「記録」と「記憶」の問題をあつかいます。激動の時代であった20世紀において、歴史的な出来事や社会はどのように芸術の中に記録され、記憶されてきたのでしょうか。このことを考える手掛かりとして、1930年代から第二次世界大戦、冷戦を経て1980年代までの芸術作品の制作と展示を解説します。また、イメージと記憶のテーマから出発することで美術史の方法論を考えなおし、現代人文学の分野において注目を集める「記憶論」についても検討します。このことを通して、1)20世紀美術の概略を理解し、2)芸術作品を読み解く美術史的手法を学ぶと同時に、3)近年の方法論・理論的議論を理解することを目標とします。

アリステッド・マイヨール 《悲しみ》、1922年.png
 

近現代西洋の彫刻論

2019年2月 学部集中講義(沖縄県立芸大非常勤)

西洋近現代美術の諸相を、年代順に追うのではなく、鍵となる3つの概念(I. 芸術作品の自立性 II. アヴァンギャルドとキッチュ III. 芸術作品と集合的記憶)を通して浮かび上がらせます。とりわけ20世紀諸芸術(絵画やデザイン、コンセプチュアル・アートを含む)を理解するうえで欠かせない彫刻論に焦点をあてて論じます。

現代美術において、ジャンルを越境した創造は前衛文化に欠かせないものであると言えます。とりわけ20世紀における彫刻概念の拡充と彫刻論の展開は、そのジャンルの枠組みを超えて、諸芸術に大きな影響を与えました。この授業では、19・20世紀彫刻論を中心としながら、彫刻と絵画やデザインとの接点(着色彫刻やピュグマリオンのテーマ、複製とオリジナリティーの問題、彫刻家の著作権の歴史も扱う)、芸術と社会・政治との関係性に注目しながら、下記の目標に到達することを目指します。

・西洋近現代美術の基礎的な概念と批評言語をおさえます。

・西洋近現代美術の歴史的文脈(コンテクスト)を理解します。

・それらを理解したうえで、自分自身の問題意識につなげて考察します。

オーギュスト・プレオー(1809-1879)、《沈黙》、1842年.png