公共彫刻は日常生活の場でも観光地にも溢れていますが、風景に溶け込んでいる場合も多く、気がつかずに通り過ぎてしまう人も多いかもしれません。しかしフランスの彫刻研究の分野ではアネット・ベッケルやアントワーヌ・プロスト、クレール・バルビヨンなどによる興味深い著書・論文が発表されています。基本的には各地を歩いて探すことが必要とされる研究課題ですが、あらかじめインターネットで情報収集をしておけば効率的に調査を進めることが可能になります。今回はそんな彫刻研究の強力なツールとなるWebアーカイヴを紹介します。日本の公共彫刻についてもいつかこのような彫刻アーカイヴができることを願いつつ…
まずは彫刻研究で一般に有用なサイトをいくつか。
非常に便利なのが、ナッシャー彫刻センターやフランス国立美術史研究所、テキサス大学といった複数の研究機関の支援により運営されているフランス彫刻レパートリーのサイト。1500年から1960年までの、アメリカの公的コレクションで見ることのできる彫刻作品7000点が登録されています。もちろん彫刻家や作品について詳細を知ることができる検索は貴重ですが、リソースの部分では、1853年から現在までの彫刻関連の展覧会情報、1900年以降に出版された彫刻研究に有用な文献の書誌情報、技法、権利関係(複製など)の法律資料もあり、大変有用。
フランス国立美術史研究所の研究チームが運営しているWebアーカイヴをいくつか。まず、ローマ賞受賞者がローマからパリに送った彫刻・絵画目録。1804年から1914年まで、ローマ賞を受賞したボザールの学生たちが、ローマ留学の成果としてパリに送られた絵画と彫刻の1500点の目録を検索できます。次に、19世紀以降のフランスで、彫刻について書かれた文章のレパートリー。彫刻批評や美術史における彫刻の位置づけ、価値の変化を研究するのに、今後大きく役立ちそうです。
特定の彫刻家に特化した美術館のサイトにも、便利なWebアーカイヴがあります。例えば、ロダン美術館では、オーギュスト・ロダンの作品だけでなく、彼がコレクションしていた彫刻・写真や書簡などを閲覧することができます。また、パリ市が管理するブールデル美術館のアーカイヴ目録もあります。必ずしもイメージは閲覧できませんが、内容の記述は非常に詳細なので、ある程度目録で目星をつけて現地で現物を閲覧することが可能です。また、ジャコメッティ財団は、1000点以上の彫刻、絵画、素描、装飾芸術を含むジャコメッティのレゾネをネットで公開しています。
フランスにおける公共彫刻のWebアーカイヴとしては、ルネサンスから1945年までの作品を網羅したプロジェクトà nos grands Hommes が有用。戦没者記念碑や公園装飾の彫刻を含む約8000点の作品を閲覧することができます。書誌リストもテーマ別で非常に見やすいです。
世界大戦の戦没者記念碑であれば、複数の検索ツールがあります。まず、フランスとベルギーを中心とする戦没者記念碑検索ツール。作者や自治体ごとの検索欄のほか、地図からの検索もできます。各自治体にはさらに詳細な戦没者記念碑のアーカイヴがあり、こちらの目録のレパートリーはフランス政府公式ホームページから一覧できます。各自治体のネット目録にアクセスすると、さらに詳細な資料目録の一覧が…(アヴェロン県、ソーヌ=エ=ロワール県、イヴリーヌ県、ヴァンデー県、などなど…)。このほか、第一次世界大戦の戦没者記念碑について各自治体が書誌媒体で刊行した研究成果についても、フランス政府公式ホームページで紹介されています。
なお、記念碑を制作した個別の彫刻家の名前がわかれば、国立公文書館の目録でも資料の検索ができます。現地で契約書などを閲覧することができます。
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