美術史のレポートの書き方 ② 作品分析の仕方(形式編)

更新日:2019年12月24日

先行研究も読んで、ある程度知識をつけ、いざレポートを書く、という時に、作品について分析することを選ぶ人は多いのではないでしょうか。作品分析をする際に、一番おすすめしたい方法は、自分が関心のある芸術家の作品が置いてある美術館や、展示されている展覧会を調べて、積極的に足を運ぶことです。作者や同時代の背景について、知識がある程度ある状態で、作品に向かい合ってみます。しかしそこには、美術館の作品解説や先行研究には書かれていなかった特徴がたくさんあると思います。作品のどのようなところに目を配り分析すればよいのでしょうか。



(1)絵画


絵画であれば、まずは大まかな構図に注意します。作品のサイズと材料を把握するのは基本ですが、次に、どのような構図で描かれているのか、その概略を把握します。人物や静物、建物や木々はどのように配置されているのか、消失点はどのあたりにあるのか、地平線はどのあたりにあるのか、画家の目線はどのあたりにおかれているのか、風景画であれば前景、中景、遠景にそれぞれ何があるのか、を理解します。


次に、細部の描写方法に注目します。人物の肌の塗り方、手の指の描き方やその表現、衣服の模様、木々の枝や葉の描き方、雲の描き方など、画家や流派ごとに異なっています。丁寧に観察して鉛筆でメモを取りましょう(美術館展示室ではペンは使用してはいけません。日本の多くの美術館は、受付でメモ用の鉛筆を貸してくれます)。


色の塗り方も、画家や流派により様々です。光の表現には、明暗のあいだのグラデーションがあるのか、あるいは明るい色と暗い色の間の中間色無しに、明暗の対比を激しく描いているのか、筆触は目立つのか、目立たないように仕上げられているのか、などに注目します。それぞれの特徴は、その絵に何らかの効果を与えているはずです。しっかりと観察しながら、それぞれの表現が持つ意味について考えてみましょう。それはその流派や画家の全体の傾向の中で典型的なものなのでしょうか、例外的なものなのでしょうか?先行研究で論じられている傾向と照らし合わせるとどうでしょうか?


また絵画の場合、ごく稀にですが、額縁を画家自身が制作していることがあります。イギリスの画家ジェームズ・ホイッスラーや、藤田嗣治などです。これもまた重要な情報になります。


(2)立体作品


立体作品では、まず素材に注意します。大理石、ブロンズ鋳造や木彫、あるいは日用品を用いたレディメイドなど、様々な種類の立体作品があります。どうしてそのような素材が用いられているのか考えてみましょう。大理石や木彫であれば、自然物ですので自然の模様が入っています。それらはどのように生かされているでしょうか。またもともとある既製品を用いた作品や、産業的な素材素用いた作品では、その素材そのものにより型破りな性質を持っていますが、組み立てや溶接にどのような技法を用いているのか、どのように異なる素材を組み合わせているのか(違和感があるのか調和しているのか)なども考えてみましょう。時には彫刻に色が塗られていることもあります。そうした形式的な側面について細かく分析していくと、作家の意図が見えてくるはずです。


また立体作品では、できるだけ360度回ってみるようにしましょう。正面性は強調されているでしょうか、それともどこからでも見られることを想定しているのでしょうか。彫刻の大きさや形状は私たちの鑑賞の体験にどのような影響を与えているでしょうか。こうしたことから、その彫刻がどのように見られることを意図して作られたのか理解する糸口が見えてきます。


さらに、稀に彫刻の台座を芸術家自身が作ったり指定したりしていることがあります。ブランクーシなどが有名です。その場合には、それらも作品の一部として丁寧に観察しましょう。


(3)版画・挿絵


版画や挿絵なども扱ってみたい、という方もいるでしょう。構図や細部表現の観察については絵画と同じように分析すれば良いのですが、描く際に使用する技法そのものが大きく異なっている点に注意が必要です。版画には木版、リトグラフィー、エッチングなど様々な技法があり、版画と絵画技法を組み合わせたものもあります。それぞれの技法の大まかな特徴を掴んだ上で作品を見ることをお勧めします。


また、挿絵の分析では、イメージと文章の関係についても考えてみましょう。「読む」という体験の中で、どのような役割を視覚イメージが果たしているのかを、その形式的な側面から分析します。


(4)関連作品の調べ方


作品分析が終わったら、その作家の別の作品についても気になる方もいるはずです。そんな時に使えるのが、カタログ・レゾネと呼ばれる、作品総目録集です。フランス語ではCatalogue raisonnéと書きます。日本語の口頭表現では「レゾネ」と略称で呼んだりします。すべての作家についてカタログ・レゾネが存在しているわけではないですが、著名な画家であれば出版されていることが多いです。その作家についての先行研究を読んでいると出てくると思うので、もし図書館に入っていればちょっと時間を見つけて見てみましょう。多くの場合年代別になっているので、自分が分析した作品の前後にどのような作品を制作していたのか理解することができます。場合によってはその作品の下絵なども見つけることができるでしょう。


インターネットにも多くの情報があります。ネットで検索できるフランスの画家のレゾネや、画像検索のツールも、多く存在します。自分が分析した作品が、どのような流れの中で制作されたのかを知ると、作品そのものの理解も一層深まると思います。特にネットのレゾネでは、その作品についての先行研究一覧が掲載されていることも少なくありません。