美術史のレポートの書き方 ① 先行研究の探し方

更新日:2019年12月26日

皆さんは大学でレポートを書く際、どのようにテーマを決めているでしょうか。授業で見た作品や作者からテーマを決める人、展覧会や旅行で訪れた美術館で気になった芸術家について書く人、小さい頃に実家の画集で知った芸術家について書く人、様々だと思います。


どのような作品や作者についてレポートを書くにせよ、まず重要になってくるのは「どのような参考文献を選ぶか」です。大学で専門科目を学び始めた学生さんにとっては特に、どのようなテーマが美術史という学問の問いの対象になり得るのかを学ぶ必要があります。そうしたことを学んではじめて、どのような疑問を、どのように紐解いていくのかがわかるようになります。こうしたレポート作成の経験の、一つ一つの積み重ねがあってこそ、大学の最後を飾る卒業論文が書けるようになるのです。そこで今回は、レポートで参考にする先行研究の探し方について書きたいと思います。


(1)授業の参考文献・参考書から探す


まず、授業の補助教材についてです。西洋美術であれば、小学館の『世界美術大全集』や中央公論新社の『西洋美術の歴史』、三浦篤先生の『まなざしのレッスン』1・2巻(東京大学出版会)、20世紀美術であれば『Art since 1900』(東京書籍) などが役立ちます。日本も含めた現代美術の入門としては、最近出版された山本浩貴さんの『現代美術史』(中公新書)も大変役立つと思います。そこで参考文献として挙げられているものを探せば、必ず良質な研究に出会うことができます。こうした補助教材で挙げられているものは「基礎文献」と言われるもので、「この分野について専門的に知りたければ最低限読んでおかなければならないもののリスト」であるとも言えます。なお、外国語が得意な人は、「岩波世界の美術」シリーズの各書の巻末にある外国語参考文献の一覧を参考にしてみるとよいでしょう。


さらに、授業中に配られた参考文献一覧にあたることも一つの手です。もしも授業中に耳にしたテーマが気になっているのに参考文献一覧でそのテーマに関する研究が挙げられていない場合には、迷わず教員に質問してみましょう。


(2)図書館の検索エンジンで探す


所属している大学の図書館の検索エンジンで、気になる芸術運動や作者の名前を入れてみましょう。そうすると、それに該当するキーワードを含む著書や展覧会カタログが出てきます。これらの本を、実際に図書館に行ってみて、手にとって見てみましょう。学術的な著書や展覧会カタログであれば、脚注で重要文献が紹介されていたり、非常に有用な参考文献一覧がついていたりします。こうした著書や展覧会カタログの論文・解説をもとにレポートを書いてみるのもよいですが、もし自分の興味により近い文献がそこで紹介されていれば、そちらにあたってみましょう。


逆に、注がついていなかったり参考文献一覧が極端に乏しかったりする本や展覧会カタログの解説文は、一般的な概論であることもあります。概論的な本や解説は、その分野を学ぶための入門としては役に立ちますし、何よりも読みやすく興味関心をかきたてるように書かれているので楽しく読み進めることができるのですが、大学の学問の一環として、自分で問いを立て論証する手法を知るのには、やはり概説だけではなく、学術的な専門家が学術的な論証を目的として書いた文章もまた、読むべきです(特に美術史など歴史学系諸分野の場合に限ってですが)。もちろん注や参考文献一覧がない専門書も、学問的に重要な概説書も、世の中にはたくさんありますが、まだあまり研究書を読み慣れていないなくて、基礎文献を把握していないうちは、注があるかないかなどを、先行研究を選ぶ際の目安にしながら、基本的な分析の仕方と、その分野で活躍している研究者の名前とを学ぶようにしましょう。


(3)論文検索エンジンで探す


論文の検索エンジンには様々なものがあります。学部の学生さんのレポートで一番役に立つのがCiniiです。日本語論文をカバーしているので、気になる作者や作品の名前をいれ、参考文献を探しましょう。ネットで閲覧できるものもありますし、大学図書館で閲覧できるものもあります。雑誌がどこにあるのかわからなかったり、雑誌論文を取り寄せたりする方法がわからなかったり、など、何か困ったことがあれば大学図書館のスタッフに聞いてみましょう。ただ、やはりこの場合も、商業誌に掲載された概説的な文章が検索に上がってくることもあるので気をつけてください。まだ学術論文を読み慣れていなくて、どれが参照すべき論文なのか判断に迷う場合は、出来るだけ学術雑誌に掲載された論文を選びましょう。また、レポートを読んでいると、稀に、論文タイトルを書誌名と勘違いしたり、訳者の名前を著者と勘違いするケースがあるので気をつけましょう。


大学院への進学を考えている方、あるいは大学院生は、JSTORで英語論文の検索にチャレンジしてみましょう。サインインするのに大学のアカウントが必要ですが、わからなければ図書館のスタッフさんが助けてくれるはずです。フランス語論文だと、Persée などで検索してみましょう。こちらは無料で読める論文を検索できます。


また、フランス近現代美術リソース集も参考にしてみましょう。フランス美術に限らず、国内美術館図書館のオンラインカタログのリンクなども掲載されていて、非常に便利です。


自分の関心にあう論文を見つけるのは最初は難しく感じると思います。何度か違う検索ワードで試してみる必要があります。また、検索の結果図書館で論文が掲載された雑誌を見つけたら、その雑誌の他の論文や他の号(最新号)にも目をとおしておくようにすると、別のレポートを書くときに役立ちます。気になる著者を見つけたら、その人の他の論文や著書も読んでみる、という風にすると、徐々に自分の好きな研究の方向性などが見つかるようになります。


(4)図書館の棚で探す


図書館では、ジャンルごとに本に番号が振られていて、テーマごとに並べられています。美術史の本は700番台の番号が一般的に振られています。歴史学や文化史の棚も参考になると思います。図書館をぶらぶらして棚を眺め、気になった本を手にとってみて目次を読み、さらに数行読み、パラパラめくって図版を見て、そこでちょっとでも運命を感じたらぜひそのまま読み進めてみましょう。このような出会いは、大学生でこそできる贅沢な機会と言えるかもしれません。逆に、たまたま目に留まったその機会を逃せば、もう二度と出会うことができない本かもしれません。ただ、稀に新刊本は置いていないことがあります。大学生協の棚には必ず注目の新刊本があるので、時間があればそちらもぶらついてみましょう。


(5)参考文献の参考の仕方


参考文献を決めたら、もちろんまずは読んでみる必要がありますが、ただそれをまとめるのではなく、疑問に思ったこと、挙げられていた参考文献で気になったものなどを調べてみることも大切です。また、わからない名前や語句があれば、その都度調べておきましょう。最初は大変ですが、次第に調べなくても楽に文章を読み進めることができるようになっていきます。最初はどの章で何が主張されているのか、ある語句がどのような意味で用いられているのか、簡単なメモを取りながら読み進めていくのも一つの方法です。特に著者が特殊な意味である語句を用いていて、それを自分のレポートでも用いたい場合には、誰のどのような定義を参考にしているのか を明確にレポートの中で示しましょう。


なお、日本美術史がご専門の佐藤守弘先生のホームページでは、より詳しく文献の示し方、注の書き方、文章の書き方がまとめられていて、参考になると思います。


いかがでしたでしょうか。それぞれの関心やレベルに合わせた参考文献の探し方をするのが基本ですが、しかし、良い先行研究に出会えるかどうかで、大学での学びの体験が変わってきます。特に大学では、単に知識を詰め込む「勉強」だけではなく、問い学ぶという姿勢が必要になってきます。問いは人それぞれですから、授業で習ったことだけではなく、ある程度自分で知識を開拓していかなければなりません。そのプロセスで迷うことなどがあれば、いつでも担当の教員に質問してみましょう。