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国際研究会『過去の巨匠と近代芸術』(東京大学・2020/01/22)実施報告

更新日:2020年1月30日

2020年1月22日に、東京大学駒場キャンパスにて、ジュネーヴ大学マルコ・ジャラとの共同企画で、『過去の巨匠と近代芸術 受容・反復・再解釈(19〜21世紀)』と題した国際研究会を開催いたしました。本研究会では、東京大学の三浦篤教授およびニューヨーク大学のトッド・ポーターフィールド教授の基調講演ののち、5人の若手研究者による発表が行われました。


フランス人画家エドゥアール・マネによる過去の作品の創造的な利用から、クリー族の芸術家ケント・モンクマンによるポストコロニアリズム的な壁画作品(メトロポリタン美術館による注文作)に至るまで、様々な例を分析対象としながら、会の全体を通して次の点が浮き彫りになりました。


マネ(三浦)、ベルー(ジャラ)、マティス(中西)、デュビュッフェ(小寺)、ピカソ(松井)からモンクマン(ポーターフィールド)まで、この研究会であつかわれたすべての芸術家において、過去のイメージとの関係が新たな創造行為と結びついており、とりわけ原作との差異が非常に重要な意味を持っていることが確認されました。原作のコピーの仕方や再利用の仕方が第二帝政以前に比べて遥かに多様になったのですが、この背景には、複製技術や美術館制度の整備によって作品へのアクセス可能性が19世紀から20世紀初頭に大きく拡大したことが関係していたと考えられます(井口、ジャラ)。このアクセス権の拡大のなかで、とりわけ美術館制度や美術史的な著作を通し、オールド・マスターによる芸術と近代芸術という二つの制度的な区分がより確固たるものになっていったと考えられる一方、互いの対話的な機能は、それぞれの芸術家において幅広い可能性を持つようになり、作者の「所属」を明瞭にしその芸術を正当化する場合もあれば、逆に過去の芸術を脱聖化したり、またそのことによって作者性やオリジナリティーといった概念を問い直したりする道具として機能する場合もありました。


会の最後にジャラが要約したように、こうした概念の問い直しは、まさにイメージがエージェンシーとして持ちうる作用であると考えることができるでしょう。イメージはそれぞれの作品に引用されるなかで、時には作者自身の意図や目的を離れて作用しました。それはまさに、ルイ・ベルーの作品《洪水の歓喜》におけるイメージの圧倒的な存在感のなかに表れていると言えます。この作品では、ルーベンスの作品を写すフォーヴの画家が、受肉したイメージのちからに圧倒されています。ジャラは、このようなイメージのエージェンシーを語るのに、再生(リサイクル)という語の使用が効果的であることを提案しました。また松井は、正当性や特定の系譜に帰することのないダイナミックなエイジェンシーを示唆する「伝染」という比喩を用いる提案をしました。


ルイ・ベルー《洪水の歓喜》1910年。カンヴァスに油彩、254 x 197.8 cm。


本研究会の開催にあたりまして、ご登壇者のみなさま、主催をお引き受けくださいました東京大学大学院超域文化科学専攻比較文学比較文化研究室のご関係者の方々、また助成をいただきました日本学術振興会のご関係者の皆さまに、厚くお礼を申し上げます。


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