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研究会『イスラム美術コレクションの形成と普及』(神戸大学・2019/09/30)実施報告

更新日:2020年1月30日


私の専門は20世紀フランス美術ですが、「フランス美術」と一言でいっても、実のところその実態は多様で一枚岩ではありません。世紀転換期から20世紀初頭のパリには、すでに多くの外国人芸術家がいて、その数は毎年増えて行きました。また19世紀以降は、イスラム圏の美術、日本美術、そしてアフリカ・オセアニア美術など、西洋諸国以外から多くの物品が流入し、「フランス美術」もまた、その影響を少なからず受けていくことになります。したがって「フランス美術」のことを考える際には、フランス人によるフランス的な美術、という簡単な定義はもはや通用しません。それは様々な社会的な動向や知と価値の体系、そして美術や学問、教育を取り巻く制度とからまり合いながら、つねに異なる諸相を見せてきた美術だと言えます。


科研費研究「20世紀フランス前衛美術における価値評価システムの形成と美術制度の役割」の一環として開催された本研究会は、フランスにおける「イスラム美術」の形成史から「フランス美術」の展開を捉え直し、かつ日本における「イスラム美術」受容との比較を通して「イスラム美術」という枠組みについてもより多角的に検討することを目的として開催されました。パリ・ナンテール大学のレミ・ラブリュス教授、東京大学東洋文化研究所の神田惟研究員、国際日本文化研究センターの稲賀繁美教授にご登壇いただきました。


ラブリュス氏は、フランスが西洋以外の国から受けた影響、なかでも「イスラム美術」が、どのようにフランスの美術館制度や教育制度、そして知の体系の中に取り入れられ、フランスの新たなる美術と思想の枠組みをかたちづくっていくのか、という点についてご発表されました。イスラム美術がフランスやイギリスにおいて制度的に取り入れられる中で、ある種の超歴史的な普遍的概念として機能しながら、とりわけデザインや装飾の分野で基本的な原則として吸収されることを通して、モダニズムと結びついたことを指摘し、そうした傾向が20世紀の前衛芸術の表現にいかに結実していくのかを明らかにしました。


なお、ラブリュス氏はポンピドゥー・センターで2019年に開催された『先史 近代の謎』展の監修をつとめていらっしゃいます。この展覧会は、モダン・アートに先史時代の芸術が与えた造形的な影響だけでなく、「先史」という概念がある普遍的な価値を示すものとして20世紀に結晶化していく過程をも示すものでした。この意味で、ラブリュス氏がご発表された「イスラム美術」という概念の普遍化の歴史は、先史文化の受容の歴史ともある種パラレルなものであったということができるでしょう。


アンリ・マティス《赤い絨毯》1906年。グルノーブル美術館


さて、「イスラム美術」という概念もまた、受容形態と受容する地域によって別の内容を指す言葉になります。とりわけ、同じように「イスラム美術」を熱心に収集してきた日本では、どのような制度と価値の体系、知の体系の中で、この美術のイメージが形成されてきたのでしょうか。この点について検討するために、神田氏に、日本におけるイスラム美術のコレクション史とイスラム美術史の展開についてお話しいただきました。とりわけそれが「ペルシャ」という言葉と結びついた経緯について明らかにしながら、シルクロードの持つ歴史的イメージとの繋がりがその独自の枠組みを形成していたことを指摘していただきました。


討論では、コメンテーターの稲賀氏にご質問を頂いた上で、発表者とディスカッションをしました。上記のような二つの全く異なる地域におけるイスラム美術受容の対照性や、ジャポニスムやプリミティヴィズムがどのように西洋におけるイスラム美術受容と関わっているのかが議論の焦点になりました。


末尾に、お忙しい中ご登壇くださった先生方、当日お越し下さった皆様、ご後援くださった美術史学会ご関係者様、日本学術振興会ご関係者の皆様に、心よりお礼を申し上げます。















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